1. 概要
気候変動や人口増加に対する対策が喫緊の課題である現在において、食用ウチワサボテン(以下、サボテンと記す)は汎用性と持続性の高い作物として近年世界的な注目を集めている。現在サボテンは我が国ではマイナー作物であるが、この作物の利活用推進は、国内における耕作放棄地の再活用・化学肥料や農薬の低減・食品産業の競争力強化などにも貢献する。
中部大学ではこれまでサボテンの基礎・応用研究を実施し、2021年にはサボテンの利活用推進を目的としたプラットフォーム「サボテン等多肉植物の潜在能力発掘と活用推進プラットフォーム」を設立するなど、サボテンの活用推進に向けた基盤を構築してきた。
この度、中部大学で新設予定の「サボテン・多肉植物研究センター(仮称。以下、サボテン研究センターと記載)」を中軸とし、サボテンを我が国で作物として根付かせ利活用を推進する計画を立案したので提案したい。
2. 連携の目的・目指す社会像
① サボテンの学術的基盤を構築する他、産学協同研究および事業化を推進する。
② 情報の収集・整理・発信、科学的根拠に基づく製品開発、サボテンに係る課題解決を通じて、
地域との連携を促進し、我が国の農業・食品産業の活性化に寄与する。
③ サボテンの潜在能力を活用し「持続可能な社会」を実現する。
まずは「サボテンを日本の食卓に」
・日本においてサボテンは「認知拡大」段階(春日井市内では「理解醸成」段階)
・連携によりサボテンの社会的受容性を向上させたい(下の図の右側に移行させる)
2. 実施体制
(1) 中部大学(サボテン研究センター)
役割と提供価値:国内やアジア地域におけるサボテン利活用を推進するエンジンの役割を担う。具体的には独自に基礎・応用研究を実施する他、民間企業・自治体・農家・その他機関と多様なレベルで連携を実施し(産官学・産学・官学等)、製品開発、事業化支援等を行う。センターはサボテンに関する情報を国内で最も有しており、あらゆる情報を提供することができる。またセンターの協力機関同士(自治体・企業・団体・農家等)の連携・商談を推進する。
(2) 国内企業、農家
サボテンを活用した事業の実施主体。具体的には、原料となるサボテン(茎・果実等)の生産と供給、製品の開発・販売等、植林や繊維原料への利用など新規事業の立ち上げ等が挙げられる。
(3) 自治体
自治体の状況や希望に応じた取り組みを実施する。例えば愛知県春日井市や広島県庄原市ではサボテンの市民文化や地域活性化に活用する取り組みが見られるが、高知県室戸市では外来種として繁茂しており、その駆除や有効活用が課題となっている。
各自治体には保有するネットワークを基に、サボテンの活用や事業化に関心を持つ自治体・民間企業・団体の紹介や、普及啓発の取り組みを期待する。
(4) その他団体
CactusNet、FAO、メキシコ大使館など、日本やアジアにおけるサボテンの利活用推進を期待する国際機関・組織等が存在する。情報効果や普及啓発の取り組みを期待する。
※協力機関(企業・農家等)における協調と競争関係について センターとその協力機関は可能な範囲で情報交換を行い、特にサボテンの普及啓発面において協調した取り組みを行う。各機関独自の製品販売については、それぞれが独立して行う。
【国内におけるサボテンの利活用推進体制】
【社会実装に向けた5つの観点の現状・課題とサボテン研究センターの役割】
3. サボテンが提供する価値の概要
【参考:類似・競合製品と比較した優位性】
4. サボテンを活用した事業パターン
(1) 野菜・半加工品(カット野菜、カット冷凍野菜)
(a)ターゲットと用途
・トレーニー向けの食材:鶏ムネ肉との相性(オクラ代替品)、ダイエット効果、
・健康野菜:新しいねばねば系食品として。健康機能性を売りにする(研究成果まちの部分も)。
・環境配慮型の野菜:「健康」「味」に加えて、「持続性や環境」の要素を売りにできないか?
・新規用途(嚥下補助食):肉など他の食品を飲み込みやすくする添え物。
(b)優位性
・栽培における環境負荷が小さく、省力栽培可能で初期投資も小さい(大型農機が不要)。
・苗を自分で増殖でき(毎年種子を買う必要がない)、長期間連続的な栽培が可能。
・地球温暖化に対応した作物:気温40度以上でも問題なく生育できる。
・健康機能性に関する報告が多数(例:脂肪吸収抑制、血糖値上昇抑制、便秘の解消等)
・食味の類似するオクラよりも安く販売でき、栽培可能な地域が多い。
(c)事業性(コスト)
・初年度に必要となる費用(1a当たり)は14~20万円程度。 ・2年目以降に収穫が可能となり、35~50万円の売り上げが見込まれる。
図1. 1aに植栽した際の初期費用と収益予想
図2. 圃場デザインの例
(2) 加工品(加工品は種類が非常に多いため、種子オイル生産の例を以下に紹介)
(a)ターゲットと用途
・化粧品製造企業(アルガンオイルの上位互換品)
・美容に関心が高い消費者への直接販売
(b)優位性
・販売価格が非常に高価(日本:約30万円/L)。
・YSLの美容液など高級化粧品に既に採用されている。
・環境負荷が他の作物に比べ小さい(荒廃地で栽培が可能)。
・主な産地が北アフリカで、アジアに産地がない。
(c)事業性(コスト)
※アジア地域での生産事例がなく、収量が不透明(現在カンボジアにて栽培試験を実施)。
・初年度に必要となる費用(1a当たり)は野菜生産と同等(14~20万円程度)。
・4~6年目以降に収穫でき、アジア地域でも収量10t/ha (販売額150-450万円)以上の見込み。
・種子を採る際に収穫した果実部分も加工品(ジュースや菓子類等)に利用が可能。
・植林事業を進める際の副産物としても生産可能(後述)。
(3) 植林事業(カーボンクレジット事業) ※国内企業とJCM案件化を目指した取り組みが進行中
(a)ターゲットと用途
・国内企業
(b)優位性
・乾燥~湿潤地域まで、世界の広い地域で実施が可能(降水量200mm~2000 mm以上で生育)
・樹木と比較してもCO2固定量が多く、乾燥地域においても火災リスクが非常に低い。
・栄養繫殖するので、増殖が非常に容易(放置すれば増える)。
・国内における炭素税の本格的な導入が追い風になる可能性。
・固定した炭素の一部をバイオミネラルに変換(炭素を土壌中に長期間固定できる可能性)
※注意:乾燥地では在来種を圧倒するので、適切な管理をしないと大繁殖する可能性が高い。
(c)事業性(コスト)
・主なコストは定植に必要となる苗の費用だが、増殖も容易。
・果実や種子オイルなどの副産物が得られ、それらからも収益が出る可能性(ルール次第)。
・国内企業と初期費用と想定される売り上げは算出済み(非公開データ)。
5. 既製品の例 サボテンは世界30カ国以上で商業栽培されており、近年では持続性の高い作物として利用が拡大している。主な用途としては、生食用の野菜(若い茎)、果実、家畜飼料、加工食品(粉末利用、飲料、菓子類等)、健康食品、化粧品等が挙げられる。以下に既製品の事例(写真)を紹介する。
6. おわりに
国内外において気候変動への対応が重要視される現在において、今後サボテンの利活用が国際的に増加・推進される事は間違いないと思われる。アジア地域はサボテンの利活用が国際的に最も遅れている地域の1つであり、またサボテンの製品化や社会実装が進んでいる地域(例えば中南米や地中海沿岸)には魅力的なマーケットである。春日井市との連携により、アジアでのサボテン利用・産業の発展を我が国がリードするための基盤を構築したい。