環境生物科学科 小島晶子研究室

高校生へメッセージ

花の咲き方はなぜ、植物によって決まっているのだろう?
葉の形はなぜ、左右対称なのだろう?

いつも私たちの身近にあるたくさんの植物。
ふと、そんな疑問を持ったことはありませんか?

私たちの研究室では、植物の葉や花の形づくりのメカニズムを
遺伝子レベルで解明する研究を行っています。
いっしょに植物の形の神秘について勉強してみませんか?

(1)はじめに

生物の形は、親から子へ受け継がれた遺伝子の情報に従って、精密に設計されています。その設計図に従って、一つの受精卵から、細胞分裂と細胞分化を繰り返して正確に発生分化し、完全な個体が出来上がるのです。地球上の生物は、動物も植物も、そして単細胞である大腸菌などの細菌も、同じ言葉で設計図が描かれており、一つ一つの細胞を維持するための情報は、ほとんど同じです。植物と動物とは、発生分化の仕組みの情報がほんの少しちがっているだけです。メンデルがエンドウマメを使った交配実験によって遺伝の法則を発見したのは、1865年のことでした。それから、135年後の2000年には、シロイヌナズナの全ゲノム配列が決定され、植物の発生と分化、形づくりのメカニズムが遺伝子レベルで詳細に理解できるようになってきました。植物の葉、花や根の形も、厳密に、コントロールされてできあがっていることがわかってきました。私達は、植物の葉や花の形がどのような遺伝子のはたらきによって、どのように出来上がるのかを明らかにすることを目的として研究をしています。

(2)葉の形づくり

植物の葉は実に多彩な形状を示します。例えば、たんぽぽのように、地上をはうようにひろがったもの、エンドウのように、一枚の葉の中に、複数の小葉がついている、いわゆる複葉の形状を示すもの、ハクサイのように、葉だけが極端に大きくなり、全体が葉のかたまりのようになっているものなどさまざまです。葉は光合成の場であり、植物体に養分を供給する重要な役割を果しています。
葉は、表と裏があり、左右対称的な形をもつ扁平な器官です。このような、特性をもつ葉は、まず、どこから発生するのでしょうか?野原に生えている雑草を見て下さい。いわゆる芽と呼ばれる部分から、つぎつぎと葉が展開してくることに気がつくでしょうか?この芽は専門用語では茎頂メリステムといって、まだ、分化していない細胞のかたまりです。植物によりその細胞数はほぼ決まっています。私達は、植物の分子遺伝学のモデル植物であり、世界の多くの研究者が材料として用いているアブラナ科の小さな雑草である、シロイヌナズナを使って研究していますが、このシロイヌナズナの茎頂メリステムは約400~600 の細胞から成り立っています。茎頂メリステムの細胞では、未分化な状態を保つためにSTM遺伝子やWUS遺伝子と呼ばれるホメオボックス遺伝子が働いています。この茎頂メリステムの周辺部でこれらの遺伝子の働きが抑えられるようになると、葉の分化がスタートします。ここでは細胞分裂がさかんになり葉原基とよばれる突起ができます。この時に葉の表を決定する遺伝子と裏を決定する遺伝子が働いて、きちんと、表裏のある葉が出来上がります。また、私達は葉の左右がきちんと相称的になるように働くAS1,AS2遺伝子をクローニングしました。その結果、AS1,AS2遺伝子は、本来は茎頂メリステムの細胞で働いているKNAT1、KNAT2、KNAT6と呼ばれる3つのホメオボックス遺伝子の発現を葉の細胞で抑制しているリプレッサーであることがわかりました。AS1,AS2遺伝子のリプレッサーの機能が失われると葉は、左右非対称な形になります。
シロイヌナズナは25000位の遺伝子をもつことがわかりましたが、多くの遺伝子は大腸菌や酵母、動物と同じ働きをするものです。一方、植物にしかない遺伝子が存在することもわかってきました。AS2遺伝子がその一つです。AS2遺伝子は植物にしか存在しないタンパク質をコードしており、葉の分化に重要な役割を果たしていると考えられます。

(3)花の形づくり

植物というと、花を思い浮かべるように、地球上には、様々な花が咲き乱れていますが、その多くは被子植物に属しています。被子植物の花は、ほとんど例外なく、外側から内側に向かって順に、がく片、花弁、雄しべ、雌しべの4種の器官が並んでいます。花の形は、これらの4種の器官の色や数の違い、大きさや形の違いにすぎないのです。例えば、キンギョソウの花は通常5枚の花びらの形が違いますが、5枚の花びらがまったく同じかたちになった花をつける突然変異体がえられています。これは、調べた結果、たったひとつの遺伝子の変異によって引き起こされたことがイギリスの研究グループによって明らかにされました。また、サクラは、五枚の花弁からなっていますが、八重ザクラは花弁の数が数十枚あ ります。これは、ただ単に、花弁の数がふえたわけではなく、雄しべが花弁に変化した、ホメオティックな変異であ ることがわかっています。葉の研究でも用いられたシロイヌナズナは、花弁が4枚ですが、ちょうど八重ザクラのように、雄しべが花弁に変化し、さらに、雌しべが花の分裂組織に変化した八重咲きのシロイヌナズナの突然変異体が見つかっています。さらに、様々な花の突然変異体を解析した結果、花の形態形成を説明する”ABCモデル”が1991年に提唱されました。これは、花の4つの器官(がく片、花弁、雄しべ、雌しべ)とそれが発生してくる位置との関係を示したモデルです。これらを、支配している遺伝子がクローニングされ、遺伝子のはたらきと4つの器官の形成が見事に説明できました。

(4)おわりに

植物のかたちの多様性は、葉や花器官の多様性に帰することができます。これらの多様性の裏に隠れた、すべての葉と花の形づくりに共通の分子的基礎を理解すると、あらためて地球上のさまざまな生物の形の美しさに驚くでしょう。
私達は、さらに、植物の形づくりを分子のはたらきで説明したいと考え、研究を進めています。