2023.3.28. 豊田ホタルの里ミュージアム研究報告に3つの論文がでました!
いつもお世話になっている豊田ホタルの里ミュージアム研究報告に3報の論文が同時に出ました!
1 大場、池谷、川野「ヘイケボタル黒化型系統×野生型F1成虫の形態、発光、および受光に関する研究」
ヘイケボタル黒化個体と野生型を掛け合わせたF1個体の記録です。見た目は野生型と同じなんですが、本当にそうなのかをきちんと確かめました。結果は「野生型と同じ」という結論なんですが、F1を作る過程で現れた不思議なモザイク個体についても報告しています。桐蔭学園高校の池谷教諭とミュージアムの川野学芸員との共著です。池谷先生はこの3月でご退職とのこと。これまでの多大なるサポートに感謝申し上げます。
https://www.city.shimonoseki.lg.jp/uploaded/attachment/65534.pdf(PDF形式:約0KB)
2 伊木、藤森、柴田、稲津、平田、吉田、大場「夏季に採集されたホタルミミズMicroscolex phosphoreusについて」
真夏に光るミミズが居た!という藤森氏からの連絡で始まった調査研究です。新しい発光ミミズの発見か!と一時は色めきましたが、遺伝子解析の結果、まさかのホタルミミズでした。これまでに夏に見つかったとされるホタルミミズの報告例とともに、夏にもホタルミミズが活動している場合があることを初めて明確に報告しました。
https://www.city.shimonoseki.lg.jp/uploaded/attachment/65530.pdf(PDF形式:約0KB)
3 桒原、大場、Korsos 「タカクワカグヤヤスデ概説」
日本で唯一の発光ヤスデであるタカクワカグヤヤスデParaspirobolus lucifugusについて分類学的に再検討しました。その結果、なんと南洋群島から見つかっていた発光種カグヤヤスデSpirobolellus phosphoreusとは別種であったことが判明しました。両種をシノニムとして報告していたハンガリー自然史博物館のコルソス博士も加わって、ヤスデ博士の桒原さんがまとめてくれました。つまり、カグヤヤスデとタカクワカグヤヤスデという異なる2種の発光ヤスデがいるということになりました。
https://www.city.shimonoseki.lg.jp/uploaded/attachment/65525.pdf(PDF形式:約0KB)
2023.3.16. LLLまたまた改訂!
先日LLLの発光生物全属リストを大改訂したことを紹介したばかりですが、今回、早くもver. 2.2を出したので、そのご紹介。いままでEllychniaとMacrolampisという属名で通っていた2属の北米産ホタルを全部Photinus属に統合するという論文(Zaragoza-Caballero et al., 2023)と、ウミユリ綱に新たに発光する新しい属が見つかった論文(Mallefet et al., 2023)が発表されたからです。増えたり減ったりで、現在930属です。
ついでに、今まで更新をサボっていた魚類、細菌類、日本産ホタル科、はっこうポケモンのリストも更新しました。
ホタル全種リストは、更新をギブアップします。ITISのホタル科リストがきっちりアップデートされている様子なので、こちらにお任せします。
ITIS-Lampyridaehttps://www.itis.gov/servlet/SingleRpt/SingleRpt?search_topic=TSN&search_value=954779#null
ざっと見た感じ、ITISで真面目にアップデートされているのはホタル科だけですねー。他のグループは結構古いまんま。まともに作られていないグループもある。
LLLhttps://www3.chubu.ac.jp/faculty/oba_yuichi/living_light_list/
2023.3.6. LLL (Living Light List)の発光生物全属リストを大改訂更新しました!
拙著『世界の発光生物』を出版したときに発光生物全属のリストの全面的見直しをしたので、私がHPに公開しているLLL (Living Light List)も更新しなきゃなあと思っていました。その面倒な作業をようやくやり終え、新たにver. 2.1として公開させていただきました(ver. 2.0は、『世界の発光生物』と同一内容のリストで、その出版以降に新たに変更のあった内容を加えてver. 2.1としました)。もし間違いなどを見つけましたらぜひご連絡ください。ちなみに現在の全属数は927属です。
基本的に手作業ですので間違いがあるかもしれません。大変な作業でしたが、こういう「作業」は正直嫌いではない。単純作業のようでそれなりに何かしらの気づきや発見もあります。
LLLhttps://www3.chubu.ac.jp/faculty/oba_yuichi/living_light_list/
大場裕一「世界の発光生物」https://www.amazon.co.jp/dp/4815810575/
2023.2.17. 論文「ヘイケボタルは、またたきで会話する」をプレスリリースしました!
ヘイケボタルのオスは、一回の点滅の間にまたたくようなパルスがあります。それは昔から知られていたのですが、その意味はわかっていませんでした。その謎に挑んだのが、晴耕雨読の在野研究者・高津英夫さんであります。
高津さんは、知多の水田地帯でヘイケボタルの点滅をビデオ録画で記録し、そのパターンをデータ化しました。その結果、飛んでいるオスはまたたきをしませんが、メスにアプローチするために着地したオスは「またたき」を開始することがわかりました。さらに、オスと交尾するメスはまたたきのない短い点滅、交尾後のメスはまたたきのような揺らぎを伴う点滅をすることが明らかになりました。つまり、3者は、またたきの有無と点灯時間という2つの要因で異なる発光パターンを発していたのです。
そこで、緑色のLEDをマイコン(マイクロコントローラー)で制御した「電子ボタル」を作成し、それを野外に置きました。このとき、またたきと点灯時間をいろいろ変えてみたところ、またたきが小さく点灯時間が短い時のみ、その光にオスが誘引されてくることがわかりました。
これらのデータを、慶應大学の南美穂子先生が統計分析した結果、その「またたき」にも意味があったことがわかったのです。その意味とは、求愛のウインク?いいえ、逆です。それは他のオスと交尾後のメスが、求愛オスに対して「こっちに来るな」という拒否のアピールだったのです。
ホタルの行動に関する論文を出せたことは私にとっても素晴らしい糧になりました。投稿まで、高津さんとはめちゃめちゃ大量に議論しましたから。
プレスリリース記事https://www.chubu.ac.jp/news/17689/
発表論文のページ(Scientific Reports)https://www.nature.com/articles/s41598-023-29552-6
OPTRONICS ONLINEhttps://optronics-media.com/news/20230217/80317/
NOTEhttps://note.com/partonpantor/n/n2be421e8048f
マイナビニュースhttps://news.mynavi.jp/techplus/article/20230220-2597580/
官庁通信社http://kancho-t.com/文教-com/【慶大・中部大】ヘイケボタルは光の〝またたき-2/
科学新聞https://sci-news.co.jp/topics/7525/
NEW! サイエンスポータルhttps://scienceportal.jst.go.jp/gateway/clip/20230306_g01/
2023.2.16. 一泊二日でアメリカに行ってきました!
というのは半分冗談。でも半分本当。神奈川県にある米軍基地の池子小学校でホタルについての講演をしてきたのです。驚いたのは、エリア内が思ってた以上にアメリカだったこと。しばらくいたら完全にアメリカ国内にいる錯覚に陥りました(実際アメリカなんですけどね、エリアに入るのにパスポートが必要でした)。
この池子小学校の周りにはホタルの生息地があり、今日は「蛍の日」ということでイベントが盛大に行われたのです。こうしてアメリカの子供達にホタルのことを伝えられたことは嬉しいですね。みんな興味津々で私の話を聞いてくれました。
エリア中の写真はありません。撮ったら怒られるかと思って遠慮してました。せっかくゲストに呼んでいただいて、何か注意されたらカッコ悪いですからね。そのかわり、一日入構パスの証明書と今回のイベント「蛍の日」のタグの写真。
ちなみに、池子小学校のシンボル(校章)はホタルですhttps://www.dodea.edu/ikegoes/index.cfm
追記:小学校内の写真は掲載OKということだったので、一枚だけ。
2023.2.9. ゲンジボタルの学名が変わった話
そういえば、日本を代表するホタル、ゲンジボタル(旧学名Luciola cruciata)の属名が変更されました。
その名もNipponoluciola cruciataです。
結構すごい「事件」だと思うんだけれど、全然話題になる気配がないのでここに書いておきましょう。
ちなみに、主著者のレスリーさん(Lesley Ballantyne)は、この論文が出る前に、この属名の変更のことをすごく気にしていて、以前こんなことを相談されたことがありました‥
「ゲンジボタルは日本の大事なホタルだから、属名を変えたら大変なことになるかしら、でも変えないといけないのよ」
また、共著者のJusohさんからは、昨年の春頃だったか
「Nipponoluciolaに決まったわ、ニッポンに敬意を込めてね、でもまだ内緒、騒ぎになるといけないから」
と聞かされていました。でも全然騒ぎになりませんね。
日本には和名という非常に素晴らしい約束事があるので、和名が安定していればラテン語の名前はそんなに気にしないのかも知れません。ヘイケボタルもLuciola lateralisからAquatica lateralisに変わって、最初は抵抗があったけど、今は普通に使ってます。ヘイケボタルという素晴らしい和名は変わってませんからね。
原著論文はこちら(Ballantyne et al., 2022)https://europeanjournaloftaxonomy.eu/index.php/ejt/article/view/2023
2023.1.30. グールド「進化理論の構造」上下巻、遂に読了!
読了まで、ほんとうに長い旅でした。実際、スペイン、ポルトガル、タイ、山形といろいろな旅のお供としてひたすら読み続けてきました。ただでも難解で衒学的なグールドの文章ですから、この長さ(むしろ重さ!)は、本当に大変だった。
下巻に入った夏頃からは、重たくて日々の持ち運びが不可能なので、基本的には昼食時の30分で8-10ページくらいずつチマチマと読み進めてきましたが、昨年末から読了しなくてはいけないとある用事ができて、ラストスパート。そしてついにこの大作を読み終えました。
この本を全部読んだ人は、生物学者でもそう多くはないはず。私がどこまで正確に理解できたかはともかく、私としてはこれを読んだか読んでないかでは大違いだと思えるくらいの進化概念の理解刷新の手応えを掴むことができました。
私の好きな言葉「抵抗なく読める書物から得られるものはほとんど何もない」ポール・ヴァレリ
ちなみに、発光生物に関わる内容は、イカの発光器のレンズタンパク質に関するわずか1箇所だけ(p 1701-1702)。ただし、遺伝子転用の話としてだから、もしあと10年グールドが生きてたら、私の研究もグールドに引用してもらえたかもしれないと思わないでもない。
2023.1. 26. 本が出ました!
なんと、発光生物以外の私の本が出ました!なんか文化人になった気分です。といっても、編著ですが。。
大場裕一[編著]『理系学生のためのリベラルアーツ』風媒社(2023年2月10日)
2023.1.9. 岸義人先生逝く
岸義人先生が亡くなられた。ゲンジボタルルシフェリンやウミホタルルシフェリンの構造決定という、発光生物学史に輝く金字塔ともいうべき偉業をなしとげた有機化学者である。私の恩師である中村英士先生が、下村脩先生とならんで敬慕していた先生でもあった。日本で活躍されたあとハーバード大学の教授となり、アメリカで下村先生や中村先生と生物発光の仕事を少しされたあとは、発光生物の研究はしていない。
私も、来日された際にお会いして話をする機会に恵まれたことがあるが、その理解の速さと質問の鋭さに驚愕したのを覚えている。私は、自然科学の研究なんて情熱と運だけでだいたいなんとかなると思っている人間だが、岸先生は、この方は違う、これは別格だと思った極めて数少ない例外である。ちなみに、情熱と運だけではぜったい無理な学問分野は、進化理論、生態学、哲学、文学、まあこのくらいだとタカを括っている。
岸先生とのツーショット。2015年くらいだろうか。緊張した。
オドントシリスのルシフェリン構造を決定したとき(Kotolobay et al., 2019. PNAS)、岸先生にメールをいただいた。その文面は、英語で次の通りだった。
Many congratulations for your beautiful work.
2022.12.12. 赤松音呂さんの作品「Eox」のYouTubeビデオ!
赤松音呂さんのアート作品「Eox 一億年前のホタルの光」がYouTubeビデオになって公開されました!素晴らしい動画ですので、是非とも皆さん見てください。
私の研究成果がダイレクトに芸術作品へと昇華したことに感動です。
この美しい動画を見ていると、なかなか感慨深いものがあります。準備と展示期間中のメンテが大変でしたが、とてもやりがいのあるコラボレーションでした。もちろん本作品の改良研究は現在も進行中!
YouTube: Eox – The glow of fireflies 100 million years agohttps://youtu.be/Th0CyyLxBS4
2022.12.7. ニコルの本を入手しました!
海洋生物の生理学者コリン・ニコル(Joseph Arthur Colin Nicol, 1915-2004)の集大成『The Biology of Marine Animals』(2nd Ed., 1967)原書を手に入れた。海洋生物に関するあらゆることが網羅された、700ページの大著である。
ニコルは発光生物の研究者でもあった。この本の中にも「Luminescence」という1章がある(表紙の一番下の魚はちょっとユーモラスなオオヒカリキンメだ)。
人付き合いが悪くなかなか難しい性格の人物だったようであるが、そのことと、これだけの大著を残した熱量はなんとなく無関係じゃないように私は思う。「まあ、こんなもんでいいか」ということが自分にも他人にも許せないのだろう。
私も、そういうところがないでもない。ただし、それは研究についてだけ。それ以外のことについては基本的に「まあ、こんなもんでいいか」という感じで、雑に生きてます。
下は、羽根田とニコルが並んだ写真。人付き合いの良かった羽根田は、気難しいニコルとも仲が良かったのだろうか。羽根田の残した書簡の中にニコルからのグリーティングカードがあったような気がする。
2022.12.4. 入鹿池でホタルミミズを採りました
愛知県犬山市の入鹿池のほとりでホタルミミズを採りました。
ワカサギは20匹でした。
2022.12.2. 発光生物の絵本を購入
発光生物の絵本がアメリカから届きました。総イラストレーションのこの手の絵本は久しぶり。謝辞には、やっぱりハドック博士の名前がありました。アメリカで発光生物と言えば、ですね。
全ページに真っ黒い紙が使われているのが面白い。ページの8割は海の生物でした。まあ実際、発光生物は8割方が海に棲んでますからね。
発光色が基本的に青色か黄色しか使われていないのがちょっと残念。キノコも青く光ってました。あとは、細かいツッコミどころがないわけではないですが、一番惜しいのは、赤く光る魚!この絵は、赤く光る種じゃないです。さらに、この顎髭も実は発光します。
Julia Kuo (2022) Luminous: Living Things That Light Up the Night. Greystone Kids.
Amazonからもhttps://www.amazon.co.jp/dp/1771648880/
自動販売機で缶コーヒーを買うとき、間違って「冷たーい」を押してしまった。しまった!と思ったら、暖かいのが出てきた。なかなか気の利く自動販売機だ。
2022.11.11. 蟹江夫妻が訪問されました!
私にとってのスーパースター「日本の発光生物学の父」こと羽根田弥太先生のご長女、蟹江由紀さんと、羽根田先生が長く館長を務められた横須賀市博物館の学芸員として羽根田先生とともに活動された蟹江康光さんご夫妻が、はるばる逗子から中部大学の私の研究室を訪れてくださいました。
ご夫妻には何度もお会いしていますが、中部大学に来ていただいたのは今回が初めて。さっそく、私自慢の羽根田関連の稀覯書などをお見せしましたが、「ああ、この本もたしか家にありました」。そりゃそうですよね、羽根田先生と一緒に暮らしていた実の娘さんですから。
荒俣宏の『大東亜科学奇譚』に羽根田先生のことが出てくるので、その本をお見せしたら(自慢のつもりだったんですが)、「ああ、荒俣さん、そういえば何回か来られましたね」。それから、「父に連れられてよく岡田さん(大動物学者・岡田要)のおうちにも行きましたよ」なんて、もはや話のスケールが違いすぎるのです。
「こんなのが出てきましたのでどうぞ」と、羽根田先生がホタルの調査をしている生写真もいただいちゃいました!これは嬉しいい。ただし、周りに私の知らない人たちがたくさん並んでたのでここではお見せできませんが。
ちなみにご夫妻は、逗子の地誌や減災、鉄道の歴史、関東大震災の記録など、多岐にわたって現在も活躍されています。やはり学者の血筋なのでしょうね。
蟹江夫妻の講演案内(湘南ビーチFMの記事)https://www.beachfm.co.jp/blog/28783/
2022.11.7. 高松コンテンポラリーアート展が無事終わりました!
高松市美術館で開催されていた高松コンテンポラリーアート・アニュアルvol.11が無事終わりました!この展覧会では、赤松音呂さんの作品のひとつ「Eox」に協力させていただきました。
とりあえず最後はよく光ってくれていたということなので「無事終わった」と言えますが、10月1日に始まってから昨日までは決して「無事」とは言えない険しい道のりでした。3つほど予期せぬ事態が起こり、それはそれは大変だったのです。
私の考えの甘さが原因したところもあり、その調整のために私も高松には3回行きましたし、赤松さんと助手さんにも何度も行ってもらいました。うちの学生さんにもものすごく頑張ってもらいました。
ひたすら申し訳ない気持ちだったんですが、それでも最後に赤松さんに「このテーマの可能性は大きい‥表現の手法が広がって感謝」と言っていただけたのは幸いでした。
ああ良かった。展覧会は終わりましたが、これから改めて「Eox」の改良に着手します。
これまで、発光生物を通じて哲学、文学、サイエンスコミュニケーション、科学館、などいろいろな異分野交流をしてきましたが、今回ほどエキサイティングだったことはありません。苦しかったけど楽しかったなあ。
2022.11.6. 中京テレビ「ゴリ夢中」見ましたか
15分の短い番組の中で、いろいろ研究室のことを紹介していただきました。しかし、私の部屋にディスプレイされている「ホタルソース」のホーロー看板(写真中、私の左後ろにみえるやつ)まで紹介されるとは思ってなかった。
ちなみに、「ホタルソース」は、ダンドリには入ってなかったゴリさんの全くのアドリブ。その他はだいたいダンドリ通りに紹介されました。
ニコンのカメラ談義みたいな絵になってますが、これはたまたま。光る落ち葉の写真を私のカメラでゴリさんに見せてたあとのやりとり場面です。
放送時間中は、たまたま子ども予防接種で病院に行ってましたが、待合室の大型テレビのチャンネルがたまたま中京テレビだった!でも、誰もテレビの方を見てない。。。みんなスマホいじってました。
「ゴリ夢中」HPhttps://www.ctv.co.jp/gori/article/qjhouvy2rfz8zprs.html
2022.11.5. 中部大学蝶類研究資料館で企画展やってます!
藤岡知夫氏の蝶コレクションを展示した企画展を開催中です(10/25-11/15)。春日井キャンパスで初めて開催する今回の企画の目玉は、貴重な標本の実物展示であることはもちろんですが、そのほかにも、藤岡知夫氏の生前のインタビュー動画(インタビュアーは私)と、藤岡コレクションを使った初めての遺伝子解析研究のポスター(研究は私の研究室で実施)も是非見ていただきたいイチオシです。
私はチョウの専門家ではありませんが、昆虫DNA研究会(私が代表幹事をしてます)を通じて、たくさんの蝶研究者と交流があります。驚かさせるのは、その研究者と愛好家の層の厚いこと。ものすごい知識の人が日本中にごろごろいるんです。専門家とアマチュアが知識を集結させて研究を深めている、すばらしいモデルケースだと思います。発光生物も、蝶の1/100でも専門家とアマチュアがいれば、どれだけ研究が進むことでしょう。面白さと美しさでは蝶に負けないと思ってるんですが、なぜか発光生物に夢中な人って、あんまりいないんです(ホタルだけは別ですが)。
今日の中日新聞(近郊版)です。クセのある美術館学芸員風なワタクシ。いちおう笑顔のつもりなんですが。。
中日新聞WEBhttps://www.chunichi.co.jp/article/576788
中部大学蝶類研究資料館https://www.chubu.ac.jp/about/university-activities/museum-butterfly/
企画展「藤岡知夫蝶類コレクションの世界」https://www.chubu.ac.jp/event/502/
2022.11.4. 岡崎市立秦梨小学校で講演してきました!
岡崎市の山間にある秦梨小学校で講演してきました。4年生から6年生までの29人。ホタルがいかにもいそうな場所でしたが、実際、学校の水路にはヘイケボタルがたくさん出るそうです。
今日は校庭でホタルミミズ探しをしましたが、土の中からカエルが出てきたりサワガニが出てきたりで、大盛り上がり。いい環境だなあ。しかし、お目当てのホタルミミズは残念ながら見つからず。まだ暖かすぎたようです。
そんなこともあろうかと、一昨日に中部大キャンパス内で採っておいたホタルミミズと乾燥ウミホタルの光を見てもらいました。12月から2月だったら必ずホタルミミズがいると思いますので、ぜひもう一度トライしてみて欲しいですね。
今日持って行った中部大のホタルミミズ。中部大の図書館脇にはもうポツポツ出て来てるんだけどなあ。
2022.10.28. 「ゴリ夢中」の放送日が決まりました(予定)
以前取材のあったゴリさんの番組「ゴリ夢中」(中京テレビ:4チャンネルですね)の放送日が決まったと連絡がありました。11月5日(土)11時45分からだそうです(変更の可能性あり)。1億年前のホタルの光を再現したり、キャンパス内に光る落ち葉を探しに行ったりします。中部地方の方限定ですが、是非見てくださいねー。
中京テレビ「ゴリ夢中」番組HPhttps://www.ctv.co.jp/gori/
応用生物学部新着情報https://www.chubu.ac.jp/news/10054/
2022.10.24. 高松4
はい、高松4回目です。美術館の休館日に作品の調整にやってきました。始発で家を出て、最終便の一つ前で帰宅するというハードスケジュールでしたが、赤松音呂さん(芸術家)と1日中話をしながらのアートの現場に触れる作業は、贅沢な時間でした。
今回は忙しくて、うどん行脚はおあずけ。解散後、赤松さんは夜8時から営業しているという幻のうどん屋へ行かれたそうです。私も行きたかったけど、名古屋に戻ってこれなくなるので断念。
イベント情報https://www.art-takamatsu.com/jp/info/event/entry-857.html
赤松音呂さんのサイトhttp://www.neloakamatsu.jp
2022.10.22. 基生研セミナー
岡崎市にある基礎生物学研究所(基生研)は、私が総研大生として学位をいただいた母校であります。基生研には1994-2000年まで在籍しました。そのときの師匠が吉国通庸先生(現・九大名誉教授)。その吉国先生の講演会の前座(?)として講演をさせていただきました。
基生研時代の教授である長濱嘉孝先生をはじめ、20年ぶりの懐かしい長濱ファミリーが、原点となった基生研に集まった感激の1日でした。みんな、変わってないなあ。
長濱ファミリーはみんな、後口動物の生殖に関わる内分泌学なんだけれど、私だけ生物発光に分野転向してしまった。そんな私を今回このセミナーに呼んでいただけたのは(たまたま地理的に近いところに今もいるっていうこともあるけど)、やっぱり嬉しいこと。
吉国先生の講演は素晴らしかった。それで強く思ったのは、ヨシクニイズムともいうべき研究スタイルを、分野は変わっても間違いなく私が受け継いでいるということ。生物学というのは、どんどん新しい研究技術が出てきて、研究者もそれに合わせて研究手法が変わっていくのだけれど、それとは関係ない「攻め方」というか「落とし方」というか、イズムの部分で、昔学んだ先生の影響というのが間違いなくある。
私もそういうイズムみたいなものを、私が指導した研究者たちにも伝授してきたのだろうか。そうであるためには、私が尊敬される研究指導者でなければならないのは、間違いない。
2022.10.13. ちゅとらジオ出演しました
CBCラジオの番組「ちゅとらジオ」に出演中しました。司会の小島愛理さんにはお世話になりました。
小島さんに、「僕は滑舌が悪くてラジオは苦手なんですよね」という話をしたら、「滑舌が悪いのではなく、声が前に出にくいだけ」というお言葉でした。なるほど、ちょっと苦手意識の気持ちが軽くなった。でも、声を前に出すにはどうすればいいんだろう。息をもっと強く吐き出して発声すればいいのだろうか。今度授業の時に試してみよう。
それはそうと、ラジオ番組では、発光生物の魅力について語らせていただきました。素晴らしい編集のおかげで、私の拙い説明がスムーズにつながって聞こえます。あれも言えばよかったなあ、なんてのもありましたが、まあ発光生物の一番基本の部分の説明は何とか伝えられたかなと思います。
高校生の頃、勉強しないでラジオばっかり聴いていた時代があったけど、こうしてラジオ収録のスタジオに自分が座る日が来るとは当時は思わなかったなあ。そう思うと結構嬉しい。
ちゅとらジオhttps://hicbc.com/radio/chutora/
ラジオアーカイブからも聴くことができますhttps://www.chubu.jp/main/news/8789/
2022.10.7. またまた高松
またまた高松に来ました。今回は、1億年前のホタルの光を使った芸術作品の調整のため。初挑戦なので、いろいろ細かい不具合が生じます。どうしてもこの作品展を成功させたいから、必要があれば僕は何度でも高松に来ますよ!そう、美術館までの道沿いにあるうどん屋さんを制覇するまでは!
高松コンテポラリーアート・アニュアルvol. 11「フラジャイル」https://www.city.takamatsu.kagawa.jp/museum/takamatsu/event/exhibitions/exhibition_2022/exhibitions_2022/ex_20221001.html
2022.10.6. テレビ取材
朝から、中京テレビ『ゴリ夢中』の取材があり、ゴリさんが来てくれた。ゴリさん、もっとゴリ○っぽい人かと思ったら、生物にも詳しくて、しかもさわやかでいい人だった。放送日は未定ですが、いろんな発光生物の話をしました。光る葉っぱを見てもらえなかったのは残念。もうちょっと時間があれば1枚くらい見つけられたと思うんだけど。
さわやかゴリさんと、なんかクセのありそうなワタシ。
放送日が決まったらまたここでお知らせします。
中京テレビ「ゴリ夢中」https://www.ctv.co.jp/gori/
2022.10.1. 高松市美術館でアーティストトーク
いよいよ今日から高松市美術館のアート作品展。初日ということで、なんとアーティストトークに参加させていただきました。これはなかなかできない経験だ。写真は、額に汗しながら「祖先配列復元とは何か」を説明しているところ。
他のアーティストのトークもとても興味深かった。なんか、コンテンポラリーアートがわかってきたぞ。やってみて初めてわかることって多いけど、そういうことかも。
自分の作品コンセプトや制作プロセスを上手に話すアーティストと、うまく言葉にできないアーティストっていますね。どちらがいいというわけではないけど、個人的には後者の人の作品が好きな気がする。自分がそうだからかも。うまく喋れないから、文章や作品に表現するのかな。赤松さんも、どちらかというと後者のタイプ。「私、喋るのあんまり得意じゃないんだよなあ」と控室で言ってた。
私の右が、今回コラボさせていただいたアーティストの赤松音呂さん。今回4作品出されてますが、身贔屓でも何でもなく、どれもすごく「いい」と思えた。
終了後、徳島の大学生から声をかけられた。理系だけどアートに興味があるんですということで、私が説明した科学とアートの関わりに共感するところがあったのかもしれない。
高松コンテポラリーアート・アニュアルvol. 11「フラジャイル」https://www.city.takamatsu.kagawa.jp/museum/takamatsu/event/exhibitions/exhibition_2022/exhibitions_2022/ex_20221001.html
2022.9.30. CBCラジオでトーク
先々週に続き再びCBC(中部日本放送)でラジオ収録。放送の詳細が決まったらまたこのページでお知らせします。
声だけが勝負のラジオは、滑舌に自信がない私には実は苦手分野。できるだけ意識してハッキリ喋るように努力しました。そのおかげなのかどうか「いい声ですよ」と小堀アナウンサーに言っていただいた。自信がついた。でも、実際の放送を聴いたらまたがっかりするかも。
小堀勝啓さんと著書を手に記念撮影。同じ北海道出身ということで盛り上がった。「ホタルなんてふつう見ないですよねー」。はい、北海道にはいちおうヘイケボタルはいますが、道民にとって滅多に見られるものではありません。
これに出る予定↓
CBCラジオ「燃えよ!研究の志士たち」https://hicbc.com/radio/kenkyu/
2022.9.28. 天神島臨海自然教育園
今日は、横須賀市自然・人文博物館の附属施設である天神島臨海自然教育園に行ってきました。何をしに行ってきたかと言いますと、ここに「日本の発光生物学の父」羽根田弥太博士に関する資料の一部が保管されているからです。
私は、発光生物学の歴史も興味があって、とくに日本における研究史を考える時にもっとも重要なのが羽根田先生だと考えています。それだけではなく、羽根田先生の研究のスタイルや指向性、情熱や人柄、そういったパーソナルな部分がとても好きで、人物史としても羽根田先生を調査しているのです。
とりあえず今日は天神島の最初なので、どんなものがありそうかザッと見るだけにしましたが、手紙や写真、ノートなど、とにかく驚かさせるのが、羽根田先生の発光生物の研究に対するすさまじい熱量です。
グールドが『進化理論の構造』に書いていた歴史を調べる意味「それには、現代を理解する上で役に立つ歴史分析の威力と、自分たちの営為の知的重要性を知ることの重大さを説明すればよい」(p67)」が、少し分かった気がしてきました。私が身を置いている「発光生物学」という分野がどういうものなのか(そもそも分野と言えるだけのコンせプトがあるのか)が知りたくて歴史を調べ、そして、私が良いと思っている研究スタイルが妥当である(間違っているわけではない)ことが知りたくて、私が憧れる人物を調べているんですね。
写真に見える白い建物のうしろが天神島臨海自然教育園。ちなみにプールの見える白い建物は、ブリキおもちゃコレクターとして有名な北原氏の邸宅だそうです。
天神島臨海自然教育園https://www.museum.yokosuka.kanagawa.jp/information/access/tenjinjima
北原照久氏の住まい哲学https://www.homes.co.jp/cont/press/buy/buy_00393/
2022.9.26. 高松市美術館
今日は、何と高松市美術館に行ってきました。私がなぜ美術館?かと言いますと、実は現代芸術家さんとのコラボレーションをやっていまして、その展示設営のお手伝いに来たと言うわけです。
私が1億年前のホタルの光を復元した論文(Oba et al. 2020. Sci. Adv.)を出したあと、現代芸術家の赤松音呂さんから連絡があり、それが1億年前のホタルの光を作品にしたいとのオファーだったのです。
嬉しかったですね。一億年前のホタル復元の論文は、私の中では最大の自信作だったんですが、世間様からは「すごい、これぞロマン」というようなお褒めの言葉以外にも、「意味がわからない、だから何なの」みたいなコメントを多数頂戴していました。
しかし、赤松さんからのオファーを受け、いろいろ話し合ううちに私は理解したのです。この論文が「意味がわからない、だから何なの」だったのは、そのコンセプトが少なからずアートだったからなのです。
そして、今回のコラボでは、そのアートな部分を最大限に拡張して、真のアート作品が誕生しました。展覧会は10月1日から。初日は、何とアーティストトークにも登壇させていただきます。
お手伝いといっても、中身はかなりハードな肉体労働。チューブや結束バンドの取り付けで指先は痛くてヒリヒリするし、ふだんやらない動きで体のあちこちが筋肉痛。でも、帰る直前にようやく光らせるテストができて、無事に一億年前の光が見えた時は感激しました。
一億年前のホタル論文https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abc5705
academist Journal「ホタルの最初の祖先は、何色に光っていたのか?」https://academist-cf.com/journal/?p=15226
赤松音呂さんhttp://www.neloakamatsu.jp
アート展のyahooニュースhttps://news.yahoo.co.jp/articles/1039bec64774820088e5e825ac858083824dc964
2022.9.17. 中学校の文化祭
今日は、愛知県春日井市にある春日丘中学校の文化祭。私がお手伝いしたのは「発光生物を展示しよう」という企画で、生徒さんたちには、発光生物を題材にして科学の面白さや魅力を伝える展示を考えてもらいました。
発光生物をうまく展示するには、他の展示にはない工夫がいろいろ必要です。まず、本物の生きた発光生物を展示するので、会場の教室を暗くする必要があります。しかし、解説のポスターや発光魚のホルマリン標本もあるので、あんまり部屋を暗くしてもだめ。じゃあどうすればいいのか。それをみんなでアイデアを出し合って考える時間こそ、まさにサイエンスコミュミケーションの勉強です。
そうやって仲間同士で議論しながらこれまで準備をしてきましたが、今日はいよいよそのお披露目の日です。うまく工夫できたかな、とドキドキしながら見学してきましたが、思っていた以上の完成度で安心しました。
カーテンのない窓には新聞紙を貼り付けて、教室を暗くしてありました。教室に入ったすぐは、ちょっと暗すぎるかなと思ったけど、案内の生徒の説明を聞いているうちに目が慣れてきて、ポスターの文字も見えるようになりました。だいぶ目が慣れてきたところに暗室があり、中には発光バクテリアと生きたホタルが展示されていました。発光バクテリアの光は弱いですが、目が慣れているのでしっかり光っているのが見えました。
2022.9.16. 印刷された論文雑誌
ホタルのゲノム解読に関する総説を書いたのだが、それが印刷された冊子がアメリカから今日届いた。紙に印刷された雑誌を見るのは本当に久しぶり。最近は、論文のほとんどをPDFで手に入れるので、こうやって冊子を手に取ってみることは滅多にない。
しかし、このように冊子になっていると、前後に掲載されている他の人の論文にも自然と目が行く。そうやってたまたま見た論文が、意外と面白かったりする。もともと学術冊子とは、そういう使い方をするためのものだったのだろう。
私の総説https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2214574522000141?via%3Dihub
こうやってネットで目的の論文だけにたどり着けるのは、効率的にはいいのかもしれないが。。。
2022.9.1. 院生2人がタイ王国チュラロンコン大学に留学に行きました
D1とM1の院生2人がタイ王国チュラロンコン大学に、それぞれ4ヶ月と6ヶ月の予定で留学に行きました。海外留学経験をするまえに大学教員になってしまった私としては、大学院生のうちにその経験ができるなんて本当に羨ましい。というより、自分がしたかったけどできなかったことを研究室の院生に経験してもらえることが、とても嬉しい。しかも、タイの名門チュラロンコン大学。留学先の先生も非常に立派な先生なので、2人の成長が楽しみです。しばらくこちらの研究室が寂しいですが。
私は学位を取ったあと、イギリスの大学に留学したかったけど、そうこうしているうちに日本の大学で常勤職が決まったので、留学しなかった。常勤職でも若いうちに留学する人もいますが、私は諸事情でそれができなかった。
学問のレベルで言えば、今は必ずしも欧米に留学しないといけないという時代ではありません。そういう意味では、むしろ、高い研究教育を受けられてしかも未知の発光生物がウヨウヨいそうでフィールドもできるタイという選択はかなり良いと思います。
私がタイに行った時の写真。タイは、料理もフルーツも安くてどこで食べても美味しいし、安全で親切な人が多い。ただし、すごく長い名前の人がなかなか覚えられない(短い名前の人もいます)。
2022.8.27. グールド『進化理論の構造』上巻を読み終わりました!
スティーヴン・ジェイ・グールド最後の集大成『進化理論の構造』の上巻をようやく読み終えた。難しい本を読むのは人より早いほうだと思っているが、これは手ごわかった。 まずなによりも、重たすぎる!(体重計で測ったら、1.2 kgあった)私の読書タイムのほとんどは電車の中だが、これを毎日カバンに入れて持ち歩く気は起こらないので、必然的に読む時間が限られた。飛行機の中で一気に読もうと思って、重いのを我慢して海外にも2回持って行ったが、夜間のフライトだと読書灯を付けるのが憚られて思ったほど読めなかったりもした。それでも、昼食の時間やあの感染症のせいで外に出られなかった時間を使って、なんとか読み終えることができた。 正直、内容も手ごわかった。上巻は、この本の要約が長々と述べられた後(要約だけで本一冊分くらいある!)、進化理論の科学史に関する記述が延々と続く。しかも要約では、本書において種淘汰を含む上位レベルでの淘汰(階層論的淘汰説)を基礎付けるという「とんでもない」宣言がなされるが(グールドの著作は全て読んできたけど、今までそんなこと言ってたっけ?本人曰く、1970年代から考えていたらしいが, p346)、要約なのでその詳細はすべて下巻にお預け。一体どうやって種淘汰を基礎付けるつもりなのか、気になってモヤモヤする。 「淘汰論者はみな最後は階層論モデルを認めるはずだというのが私の主張の要点だが」(p67) さらに、今度のグールドは本気で大真面目だから、大好きなギルバートとサリバンのオペレッタも、ニューヨークヤンキースのジョーディマジオの話も、一切出てこない。つまり、休憩は一切なし。後半は、ペイリー、ルイ・アガシ、ジョフロア・サンチレール、キュビエ、ド・フリースやゴールドシュミットなど、進化の歴史の話が続くが、その現代的な解釈はわざと述べずに下巻へとまわしているせいで、これまた読んでいて居心地が悪い。そもそも、なぜこんなに科学史を語らなければならないのか?グールドが歴史好きなのはわかる。私も科学史が好きだ。しかし、なぜ歴史を語らなければならないのかについても一応の言及があったものの、あまりスッキリ納得できるものではなかったせいで、延々と歴史の記述が続くのは苦痛だった。 「それには、現代を理解する上で役に立つ歴史分析の威力と、自分たちの営為の知的重要性を知ることの重大さを説明すればよい」(p67)(この説明で腑に落ちる?) そんな調子で、800ページである。重くて、長くて、しんどかった。 私は、グールドファンである。私の発光生物の研究は、進化を軸にしているつもりである。進化理論については、私はグールドに絶対的信頼を置いている。だからこの本はなんとしても読まなくていけない。しかし困ったことに、下巻は上巻よりももっと重たい。でも、上巻での欲求不満が全て解消されるかと思うと、楽しみでもある。さて、今度はどこで読もう。
スティーヴン・ジェイ・グールド最後の集大成『進化理論の構造』の上巻をようやく読み終えた。難しい本を読むのは人より早いほうだと思っているが、これは手ごわかった。
まずなによりも、重たすぎる!(体重計で測ったら、1.2 kgあった)私の読書タイムのほとんどは電車の中だが、これを毎日カバンに入れて持ち歩く気は起こらないので、必然的に読む時間が限られた。飛行機の中で一気に読もうと思って、重いのを我慢して海外にも2回持って行ったが、夜間のフライトだと読書灯を付けるのが憚られて思ったほど読めなかったりもした。それでも、昼食の時間やあの感染症のせいで外に出られなかった時間を使って、なんとか読み終えることができた。
正直、内容も手ごわかった。上巻は、この本の要約が長々と述べられた後(要約だけで本一冊分くらいある!)、進化理論の科学史に関する記述が延々と続く。しかも要約によると、本書において種淘汰を含む上位レベルでの淘汰(階層論的淘汰説)を基礎付けるという「とんでもない」宣言がなされるが(グールドの著作は全て読んできたけど、今までそんなこと言ってたっけ?本人曰く、1970年代から考えていたらしいが, p346)、要約なのでその詳細はすべて下巻にお預け。一体どうやって種淘汰を基礎付けるつもりなのか、気になってモヤモヤする。
「淘汰論者はみな最後は階層論モデルを認めるはずだというのが私の主張の要点だが」(p67)
さらに、今度のグールドは本気で大真面目だから、大好きなギルバートとサリバンのオペレッタも、ニューヨークヤンキースのジョーディマジオの話も、一切出てこない。つまり、休憩は一切なし。後半は、ペイリー、ルイ・アガシ、ジョフロア・サンチレール、キュビエ、ド・フリースやゴールドシュミットなど、進化の歴史の話(大進化と選択の単位という問題がこれまでどう論じられてきたのかのヒストリー)が続くが、その現代的な解釈(グールドの理論とどう関係するのか)はわざと述べずに下巻へとまわしているせいで、これまた読んでいて居心地が悪い。そもそも、なぜこんなに科学史を語らなければならないのか?グールドが歴史好きなのはわかる。私も科学史が好きだ。しかし、なぜ歴史を語らなければならないのかについても一応の言及があったものの、あまりスッキリ納得できるものではなかったせいで、延々と歴史の記述が続くのは苦痛だった。
「それには、現代を理解する上で役に立つ歴史分析の威力と、自分たちの営為の知的重要性を知ることの重大さを説明すればよい」(p67)(この説明で腑に落ちる?)
そんな調子で、800ページである。重くて、長くて、しんどかった。
私は、グールドファンである。私の発光生物の研究は、進化を軸にしているつもりである。進化理論については、私はグールドに絶対的信頼を置いている。だからこの本はなんとしても読まなくていけない。しかし困ったことに、下巻は上巻よりももっと重たい。でも、上巻での欲求不満が全て解消されるかと思うと、楽しみでもある。さて、今度はどこで読もう。
グールド『進化理論の構造I』https://www.amazon.co.jp/dp/4875025343/
未だにカスタマーレビューがひとつもない。私も、この大作にレビューを書く勇気はない。
2022.8.26. コリンクは発光する
柳田理科雄さんの『ポケモン空想科学読本2』を見ていて、コリンクが発光することを知った。「危険を感じると全身の体毛が光る」ということなので、間違いない。尻尾の先の星形も光るらしい。かつてはデッキに入れていたのに、全く気がつかなかった。
コリンクの進化形はルクシオである。ルクシオは英語表記で”Luxio”だから、確かに光りそうだ。ただし、説明にはルクシオが光るとはどこにも書いていない。ルクシオの尾の先は相変わらず星形であるが、ここはもう光らないのだろうか。ルクシオの進化形はレントラー。レントラーの尾も星形であるが、こちらも発光するという説明はない。
成長過程で発光能を失う発光生物は多い。例えば、ホタルの多くの種は、幼虫期には発光するが成虫になると発光しない。ただし、そうしたホタルの成虫は発光器を持っていない。ヒカリマイマイも、よく光るのは幼体の方で、成体になるとあまり発光しない。
『ポケモン空想科学読本』は、ポケモンの能力を科学で説明するという面白い本である。しかも、「そんなの科学的にありえない」という話に持っていかないところが良い。
ただし、「だが現実の世界では、光で敵の目をくらませる生き物はいないようだ」というのは必ずしも正しくはないだろう。もちろんきちんと証明するのは難しいが、目眩しの役割で発光する生物は、たとえばホタルイカやウミホタルやカイアシ類などがそうだろうと考えられている。
柳田理科雄『ポケモン空想科学読本2』https://www.amazon.co.jp/dp/4865540989/
2022.8.20. 朝日カルチャー講座、終了しました
ちゃんと余裕を持って会場に行ったのだが、思いがけない機材トラブルでスタートが遅れてしまい、完全にテンパってしまった。カルチャースクールの機材がウィンドウズだったのに、私が自分のmacでやりますと言ったのが失敗だった。反省。テンパって、いつものリズムで話ができなかった。ご参加くださった皆さま、すみませんでした。
きっと話のプロならばこんなことでは動じず、何事もなかったように喋れるんだろうなあ。まだまだ修行が必要だと痛感した。
会場参加者に、羽根田弥太先生の親族の方がいらした。そういえば羽根田先生の出身は岐阜だった。感激した。付箋のたくさんついた私の著書を持参された方もいた。喋りはテンパったが、内容に手抜きはしなかったので、よかった。
カルチャースクールの職員の方には迷惑をかけたが、スライドがスタイリッシュで良かったと褒めていただいた。スライド作りについては、凝りすぎないやりすぎない統一感のある美しさをこれまでも追求してきたつもりだが、それをスタイリッシュと褒めてもらえたことは初めてだったので、嬉しかった。
これからも、よりいっそう講演の技術を向上させたいと思う。学びたいという人に対して話をするのだから当然だ。真剣に話すことで、こちらも毎回なにかしら学んでいる。
朝日カルチャーセンターhttps://www.asahiculture.jp
2022.8.10. 朝日カルチャーセンターでのセミナーが近づいてきました!
朝日カルチャーセンター名古屋教室でのセミナーが近づいてきました(8月20日(土)13:30から開催です!)。オンラインでも参加できますが、栄(名古屋の中心街)での会場受講もできます。世界の珍しい発光生物の話から、夏休みにこの辺で簡単に採れる発光生物についても解説いたします。
申込みの方もそこそこ集まってきているようですが、現時点ではオンラインで参加される方が多いようです。対面で反応を見ながら話をするのが好きなので、私としては会場受講の方がもう少し増えてくださると嬉しいかなあ。もちろん、オンラインで参加される方も募集中です!まあ、今時期は猛烈に暑いですからね。無理をされませんように。
朝日カルチャーセンター「発光生物の世界ーホタルから深海魚まで」
教室受講https://www.asahiculture.jp/course/nagoya/81337a8d-58b2-a545-9329-623a71020bb7
オンライン受講https://www.asahiculture.jp/course/nagoya/6fb7f953-f411-6d9f-6f6a-6255292dad55
なお、会場では著書『世界の発光生物』(名古屋大学出版会)の販売も行います。ご希望の方にはサインもいたしますので、この機会に是非!
2022.8.3. 発光性海産プランクトンの新刊がひどかった
「発光性海産プランクトン」というタイトルの洋書が出版された。さっそく手に入れてみると、あらゆる発光種がリストされている感じーーこれはまた重要な本が出たものだ!と驚いたが、よく読んでみると何とも残念な出来であることが判明した。
あらゆる発光種がリストされているようで、実は、発光するかどうか疑わしい種や、そもそも発光しないことがわかっている種、発光じゃなく蛍光するだけの種、そんなのが大量に混ざっている。最近わかった知見の漏れもひじょうに多い。
コノハウミウシのところに「セレンテラジンで発光」と書いてあって文献まで示されていたので、「え、知らなかった、見逃してたか!」と焦ったが、引用文献を見てみたらコノハウミウシのことなんかひとつも書いてない。そんなのばっかりで、いちいち書いてあることの事実確認をするのも馬鹿馬鹿しくなった。
要するに、当てにならない文献(どこかのウェブサイトだとか、なんとかペディアとかの情報も含む)に書いてあることそのまんまの「情報の受け売り」で、自分でその情報の信頼性をチェックしていないのである。そして、そのチェック作業こそがどれだけ重要で大変なことかが、著者はまるでわかっとらん(怒)。これでは、子供の調べ学習か大学生の杜撰なレポートと同レベルである。
そういえば、私も画像の一部を提供してた。よく知らない人から「アレとコレの画像を著書の中で使わせてくれ」とだいぶ以前に連絡があったのが、この本のことだったようだ。ちょっと調べてみるとわかると思うが、この出版社も少々あやしい。
私のような発光生物マニアには、あくまでも「奇書」としてコレクションする価値はあるが、マニア以外には弊害しかない。オススメできないのでリンクも付けません。
2022.8.2. アンサーコラムに研究と著書を紹介していただきました!
水中撮影機材の専門メーカー「アンサー」のHPにあるウェブコラム「アンサーコラム」に、私の研究と著書を紹介していただきました!取材してくださったのは、海が大好きでブルーバックスの著書もある科学ジャーナリストの山本智之さん。是非ご覧ください。「アンサーコラム」バックナンバーもお勧めです。
アンサーコラム第18話「ゴカイもクモヒトデも光る!」https://www.uw-answer.com/column/odontosyllis-undecimdonta/
山本智之さんの著書(私も読みました)https://www.amazon.co.jp/dp/4065206766/
2022.7.31. ひかるいきものポスターを額に入れて飾った!
福音館書店かがくのとも2022年6月号『ほたるのひかりかた』の付録です。専門の立場からいろいろ意見を出させていただきましたが、イラストレーターの中田彩郁さんのおかげで大変すばらしいポスターに仕上がりました。しかも、見てください。中田さんの直筆サイン入り!これは、監修をした私だけに与えられた特別バージョンと言えましょう(かなり自慢)。保存版として額に入れて、研究室に飾ることにしました。
ちょっと目立たない扉の横に飾ったのは、ポスターが日焼けしないように、窓からできるだけ遠い場所を選んだためです。ちなみに、私のデスクの前にはサイン無しのものをドーンと貼ってます。
2022.7.15. 横須賀学院高校で講演して来ました!
小学校で講演する機会は多いけれど、中学や高校は比較的珍しい。特に高校生は、生物の授業でいろいろなことを習っているので、話を簡単にしすぎてもいけないし、レベルを上げすぎて失敗したこともある。話をするのが難しい。
でも、今回はうまく行った(ように思う)。うまく行くときというのは、何と言っても、聞き手が身を乗り出して聞いてくれている時です。聞き手の反応があると、それに合わせて話を変えていくことができます。「こういう話に興味を持ってくれるなら、これも話しておこうかな」とか、「ここはあまり反応しているようすがないから、次のこの話はやめておくか」とか、即興で話を変えて行くのが私のやり方ですが、聞き手の反応が何もないとそれがうまくできない。その点、横須賀学院高校の生徒さんは良かった。みんなリラックスして聞いてくれていて、ちゃんと反応もある。この辺は、学校の先生の教育かな。
最後に、生徒さんたちが書いた受講メモとコメントのコピー全員分をいただいて来ました。見てください、高1でこの受講メモのレベルの高さ!よくこれだけ完璧なメモが取れるものです。ちなみに、自分が高校生だった頃を思い出してみると、、、授業中はいつも、先生の話はまるで上の空、ただ睡魔と戦っていた記憶しかない。
2022.7.11. 岡崎市の中学校で講演してきました!
岡崎市立河合中学校で講演をしてきた。全校生徒数56人の学校。周囲にはゲンジボタルが発生する川が多く、ホタルが学校のシンボルになっている。校舎の横をサルがうろうろしていた。「生徒が育てたゴーヤとかを食べちゃうんですよね」と校長先生。全校生徒が体育館でみんな姿勢を正して聞いてたので、こちらも緊張した。いつものくだらない冗談が今日は言いにくかった。
学校では、もう数十年間ずっとゲンジボタルの幼虫を育てているということで、飼育施設を見学させてもらった。川の水を引いて幼虫の餌となるカワニナを育てる立派な設備があった。これなら十分なカワニナを育てられる。それでも、幼虫のサイズに合わせてカワニナのサイズを選別して与えるのはすべて手作業。自然科学部の生徒さんの熱意がなければ続けられない。
もちろん、育てているのは地元のホタルと地元のカワニナ。地元のホタルの幼虫を育てて地元に放流するのはいいこと、でもホタルを飛ばすのだけが目的ではないはず、それと一緒に地元の川の環境全体を良くする活動もするとよいでしょう、また育てた幼虫を使っていろいろな科学的実験をしてみるといいでしょう、という話を最後にしてきた。
2022.7.10. 本の修理3
こちらは渡瀬庄三郎の『螢の話』。明治35年(1902年)に刊行。ホタルの科学を分かりやすく一般向けに説いた日本最初の本として、歴史的意味がある一冊である。
ソフトカバーに近い感じの和本であったが、かなり痛みが激しく、開くたびに紙の断片がポロポロ落ちてくるような状態だったので、思い切って修理に出した。オリジナルの表紙を切り抜いて新しく装丁しなおした表紙に貼り付けている。かなり大胆な修理法なので、仕上がりを見るまでドキドキしていたが、なかなか気に入った。
左がオリジナル。右が修理後。本が生き返るとは、このことだ。
2022.7.6. 本の修理2
こちらの『Bioluminescence』は、もともとアメリカの図書館からの除籍本で、イギリスの古書店から購入したもの。もともとカバーはなく、私も長年普段使いしていたものなので、本の背は割れて、ページもかなり緩んでました。
ちなみに、修理費は、最初に古書店から購入した時の金額とあまり変わりません。このあたりは、いい革靴をオールソール(靴底全体の交換)して履き続けるダンディズムに通じる気がします。
これが修理前と修理後。ちゃんと背の金文字と金色の2本線も再現してもらいました。ただし、ここには写ってないけど背の下の方にあったAcademic Pressのロゴだけは勝手に作るわけにはいかないので、それはありません。この一冊はこれで今後も普段使いできそうです。学生さんでこの本を閲覧したい人があれば、こちらを閲覧してください。大学図書館に献本して置いてもらってもいいかも。
2022.7.5. 本の修理1
プロに本を修理を頼むということを初めてやった。大学図書館の方に相談したら、大学図書館に出入りの業者さんを教えてもらったのである。以前から、大事な本を修理するということに興味があったので、修理が終わって戻ってくるのを楽しみにしていた。
今回修理してもらったのは、ニュートン・ハーヴェイの『Bioluminescence』。言わずと知れた発光生物学の古典的バイブルである。私が所有している3冊のうちの2冊を、その状態に応じて異なる修理をしてもらった。
まずは一冊め。左が修理前、右が修理後です。この個体は、薄いカバー(ダストジャケット)がかろうじて残っていましたが、ボロボロで今にも破けてしまいそうな状態でした。あんまり変わってないように見えますが、実は残存しているカバーを近い色の台紙に貼り付けて新たな表紙にしています。また、中の本自体も緩んでいたので、表紙と背をオリジナルと同系色のネイビーで作り直してもらっています。これでオリジナルの持ち味をできるだけ残したまま実際に手にして読める本に蘇りました。
本を修理して使う、というのはカッコいいと思う。もちろん、修理なしの完全オリジナル状態がいいという人の気持ちもわかる。また、学術書なんだし、もうデジタル化されてるんだから、オリジナルは必要ないという人の気持ちもわかる。しかし、オリジナルにしかない味わいや風合い、そして「使ってこそ本」という本の本質、そのバランスの間に本の修理技術というものがあって、そこがカッコいいと思う。例えば、私が大好きなヴィンテージのオイルドコート。これも飾っておくのではなく普段から着て、痛んだらリペアする、そのリペア跡がかっこいい、というそういう感覚に近いなあ。わかるかなあー。
2022.6.19. 国際ホタル学会(ポルトガル)に参加してきました!
ポルト(ポルトガル)で開催された国際ホタル学会(International Firefly Symposium)に参加してきた。今回は、基調講演ということで、旅費・宿泊費・食事を含めた参加費をすべて出してもらっている。ありがたいことである。
世界中のいろいろな国の人が、ホタルに関心を持ってくれている。そして、彼らは「ホタルの保全といえば日本だ」とみな思っている。「ほーたる来い」の歌を歌って「ドクターオオバ、これで合ってますか?」なんて聞いてくる。
それなのに、日本からの参加者は私たったひとり。しかも、この学会のメインである環境保全学を、私はまったくやっていない。みんなに「ユウイチ、日本ではどうなの?」と聞かれるたびに、「保全のことはよく知らない」としか答えられず、申し訳ない気持ちになってくる。世界のホタル研究者が日本に期待している「プレッシャー」を、びしびしと感じた。
誰かうちの研究室で「日本のホタル保全学・ホタルのシチズンサイエンス」を本気でやりたいという人いませんか?機運が満ちた今なら、本気でやれば、日本を代表する、いや世界を代表するホタル保全学者に必ずなれますよ。もちろん、それにはホタルに対する熱意と英語力と話術(ウィット)が必要だけど。
今回の学会の集合写真です。私は左端前から2人目。前列中央右が「ホタル王子」ラファエル・デコック。前列中央左がホタル専門フォトグラファーのラディム・シュライバー、その左隣が今や世界のホタル博士のサラ・ルイスです。ホタル保全学は、圧倒的に若い女性が多い。サラ・ルイスの影響だろうか、あるいはラファエルの魅力のおかげだろうか。ポルト(ポルトガル)で開催された国際ホタル学会に参加してきた。今回は、基調講演ということで、旅費・宿泊費・食事を含めた参加費をすべて出してもらった。ありがたいことである。 世界中のいろいろな国の人が、ホタルに関心を持ってくれている。そして、彼らは「ホタルの保全といえば日本だ」と思っている。「ほーたる来い」の歌を歌って「ドクターオオバ、これで合ってますか?」なんて聞いてくる。 それなのに、日本からの参加者は私たったひとり。しかも、この学会のメインである環境保全学を、私はまったくやっていない。サラ(Dr. Sara Lewis)やラファエル(Dr. Raphael DeCock)に「ユウイチ、日本ではどうなの?」と聞かれるたびに、「保全のことはよく知らない」としか答えられず、申し訳ない気持ちになってくる。世界のホタル学者が日本に期待している「プレッシャー」をびしびしと感じた。 誰か、うちの研究室で「日本のホタル保全学・ホタルのシチズンサイエンス」を本気でやりたいという人いませんか?機運が満ちた今、本気でやれば、日本を代表する、いや世界を代表するホタル保全学者に必ずなれますよ。並ならぬ熱意と英語力と話術(ウィット)が必要だけど。 今回の学会の集合写真です。ホタル保全学は、圧倒的に若い女性が多い。サラ・ルイスの影響だろうか、あるいはラファエルの魅力のおかげだろうか。
2022.6.5. スペインの学会(ISBC2022)から戻りました!
スペインの北端の町ヒホンで開かれていた国際生物発光科学発光シンポジウム(21th International Symposium on Bioluminescene & Chemiluminescence)から戻ってきました!
コロナの影響で渡航手続きが大変でしたが、世界の生物発光研究者が集まる唯一のこの国際学会に出席できたことは、本当によかったです。
今回、私は招待講演、修士課程1年と博士課程2年の学生2人はポスター発表でした。そして、D1の学生さんは見事ポスター賞を受賞。私の招待講演もなかなか反響がありました。
講演予定者の中には今回どうしても来れなかった人もいたようですが、それでもフランス、ベルギー、ブラジル、タイ、そしてロシアと世界中から主要な研究者とその教え子たちが久しぶりにオンサイトで集まり、楽しく、ものすごく有意義な時間でした。
ロシアの人たちも、とりあえず研究に困っているという様子はなくみんな元気で活発に成果を報告していたのは、喜ばしいことでした。その一方で「よく来れたね」という話をしても「え、なんかあったっけ?」という感じだったのには、違和感を感じました。むこうかこっちかわかりませんが、何かがズレているようです。
サーシャとジーナ、陽気なロシアの仲間と一緒に。なんか、私の方が切実そうな顔をしてるなあ。
ビーチが近かったので、講演の合間にイソミミズ探しもしてきましたが、調査のかいもむなしく見つけることはできませんでした。基産地がフランスだし、ビーチの砂の細かさや海藻の散らかり具合から考えても、ぜったいに居ると思ったんだけどなあ。。
2022.5.31. アストゥリアスで昆虫調査!
学会で、スペインの北端、アストゥリアス地方に来ています。ここで、チェコ・パラツキー大学の昆虫学者ボカック教授(写真左から2人目)とその学生たちと合流。彼らの昆虫調査に1日お付き合いさせていただきました。
ボカック教授はもともとベニボタル科が専門ですが、最近はコメツキムシ上科の系統解析で卓越した業績を上げています。思い返せばボカック教授のグループとは、2007年ころに旧ホタル上科の系統解析で激しいバトルをした相手。今では良い思い出ですが、お昼に飲んだワインが回ってきたらボカック博士の表情がだんだん険しくなってきて・・「あのときはよくも先を越してくれたな」と怖い顔。
その後、教授は車の後部座席でぐっすり寝てしまい、目が覚めたらまた明るい表情に戻って「会えて嬉しかったよ、これからもコンタクトを取ろう」と笑顔で握手して別れました。
私は、スポーツには興味がなく、やる方はもちろん、野球もサッカーも相撲もオリンピックも一切見ませんが、サイエンスもフェアプレイで戦うスポーツみたいなものだと感じることがあります。だから、「これはオレのテリトリーだから入ってくんな」みたいなのは違うと思う。
一度見たかった日本にはいないランピリス属のホタルの幼虫を見つけました(見つけたのは私じゃないけど)。さすがプロの目は違うなあ。普通に歩いているようで、突然しゃがみこんで何かを見つける。ジョウカイボン科のCantharis属も見ました。ベニボタルも一個体だけドミニク(写真右から2人目)が見つけた。
私の自慢は、Drilus flavescensという甲虫を今回の調査で最初に見つけたこと。DrilusはもともとDrilidaeという独立の科に分類されていて、姿がホタルに似ているので旧ホタル上科の仲間だと思われていましたが、ボカック博士らの研究によって、これが完全にコメツキムシ科の一員であることが明らかになりました。見た目、まったくコメツキムシじゃないのですからオドロキです。日本にはいない仲間なのでこれも一度は見たいと思ってました。ちなみに、その後、ミカル(写真左)もボカック教授も1匹ずつ見つけたので、私だけの手柄というわけではなくなりました。写真はボカック教授の手に載せたDrilus。擬死してますが生きてます。これがコメツキムシですよ!もちろん跳ねません。
2022.5.25. ホタルを見てきました!
静岡県某所の某大手総合化学メーカーの敷地内でホタルを見てきました!今年はコロナのこともあって一般向けの「ほたる祭り」は開催しなかったところを、特別に見学させていただきました。今年もまた、ホタルの季節の到来です。今は新幹線の中です。
今回は、新しく買ったパソコンからの最初の報告になりました。新しいマック、3月に注文したら5月末にやっと届いた。これもコロナの影響だろうか。「UKキーボード」などという無駄なこだわりをしたせいもあるが。ほら、ポンドのキーがあるでしょ。まったく「だからなんだ」である。
先代のMacbookでは、本を3冊書いた。論文もたくさん書いた。よく働いてくれた。今回の新しいMacbookは、それ以上の働きをしてくれるだろうか。パソコンを新調するといつもそれを考える。たぶん、先代ほどは働かないにちがいない。などと、毎回そう思うのだが、実際のところ、これまで新しいパソコンがその先代よりも働かなかったことは一度もなかった。しかし、今回ばかりは本当になりそうだ。先代は、最後はファンがカラカラ言っていたが、本当によく働いてくれた。私もだいぶカラカラ言っている。
2022.5.19. 『昆虫と自然』最新号はホタル特集です!
マジメな昆虫雑誌『昆虫と自然』の6月号は、ホタル特集です!「ホタル最近の話題」と題して、私が編集しました。
私の選りすぐった日本のホタル研究者の最近の知見が紹介されています。それと同時にこの特集は、2020年に亡くなられたホタル博士・大場信義先生の追悼特集でもあります。これら素晴らしい日本のホタル研究のいずれにも、大場信義先生の衣鉢が引き継がれていることがよくわかります。
大場裕一「(総括)ホタル研究のフロンティア」
大庭伸也ら「五島列島のゲンジボタル」
内舩俊樹「横須賀市博物館とホタル研究」
森哲ら「蛍毒を再利用するヘビ」
加藤太一郎ら「ゲンジボタルの遺伝的多様性を解き明かす」
表紙は、川野さん撮影によるオバボタル。表紙の解説に「オバボタルといっても、大場信義先生や大場裕一先生や大庭伸也先生とは関係ありませんよ」と書いてありました。ここは編集時にチェックしてなかったので、印刷物を見て笑いました。オオオバボタルというさらにオオバっぽいホタルもいます。
ニューサイエンス社『昆虫と自然』http://hokuryukan-ns.co.jp/cms/books/昆虫と自然-2022年6月号-特-集・ホタル最近の話題/
2022.5.18. 朝日カルチャーセンターの講座申し込みがスタートです!
朝日カルチャーセンター(通称「朝カル」)名古屋教室の講座に登壇します!
講座名はずばり「発光生物の世界」
8月20日の1回完結、教室とオンラインのハイブリッド開催になります。有料で受講いただくわけですから、楽しくためになる講座にしたいと思います。
詳しくはこちら↓
朝日カルチャーセンター講座「発光生物の世界」https://www.asahiculture.jp/course/nagoya/6fb7f953-f411-6d9f-6f6a-6255292dad55
2022.5.17. 日経サイエンスに拙著が紹介されました!
『日経サイエンス』2022年6月号のBOOK REVIEWに拙著『世界の発光生物』が紹介されました!
『日経サイエンス』は、「Scientific American」の日本語版。昔、よく読みましたね。グラフィックアートがいつも素晴らしく、サイエンスイラストレーションというものに興味を持ちました。
日経サイエンスhttps://www.nikkei-science.com
2022.5.13. ウェブサイト『リケラボ』のシリーズ「博士の本棚」に紹介されました!
「理系の理想の働き方を考える研究所『リケラボ』」のシリーズ「博士の本棚」の第5回として、私の「人生を変えた」オススメ本セレクションが紹介されました!本好きとしては、たまらなく嬉しい企画です。
リケラボ「博士の本棚」第5回https://www.rikelab.jp/entertainment/11303
追記:この「博士の本棚」に出てくる澁澤龍彦ーー私が高校生ころカッコ付けて読んでた作家ですが、その生前の動画を見つけました。動いて喋ってるシブタツ!しかも「私は喋るのは大の苦手で‥書く方はいいんですけど‥原稿作ってくればよかった‥」みたいなことを言ってて驚いた。緻密な文章と恐るべき博覧強記ぶりのシブタツが、実はおしゃべりが苦手だったとは!なんだか激しく共感です。また読んでみようかな、澁澤龍彦。
2022.5.10. 中日新聞の新刊ピックアップに著書が紹介されていました
5月2日の中日新聞夕刊にある「週間読書かいわい」というページの新刊ピックアップに、拙著『世界の発光生物』が紹介されていました!こうした新刊紹介記事は、意外と効果があるものです。ありがたいことです。
私も、こうした新刊の紹介記事はできるだけ見るようにしています。自分の興味の連鎖だけで本選びをしていると、(とくに本屋に足を運ばなくなった昨今は)どうしてもチョイスが偏ってきてしまうんですが、新刊の紹介を見ていると、ちょっと違った方向も読んでみようかなという気になって、新しい読書の幅が広がったりします。
その一方で、すでに読んだお気に入り本を何度も読み直すのも大事なことだと思っています。少し前ここに『三四郎』から『行人』まで読み直して「漱石が響かなくなってきたかも」と書いてから今日まで、後期作品『こころ』、『道草』、『明暗』を通しで読みました(GWは漱石の遺作『明暗』をずっと読んでた)。そうしたら、中期作品ではあまり感じなかった漱石文学の良さが、また分かってきたような気がしてきました。特に『道草』と『明暗』はいい。どうやらまだ精神的老化はしていなかったようで、ちょっと安心しました。
2022.5.6. 「ルシファー」という名のベルギービール
ルシファーという名のベルギービールがあります。というネタを2019年5月17日のこのページに書きましたが、あれから3年。有名な某ベルギービールのお店(自宅の近所)で、再びルシファーを飲む機会が巡ってきました。当時の印象と違って、カラメル味の強い結構はっきりしたビールでした。飲み終えたあとは、空のボトルと王冠をもらってきました。
帰りぎわ、店主さんに「どうしてルシファーにご興味が?」と聞かれたけど、一言で説明するのが難しくて「いやあ、仕事の関係で、光るものが好きなんです」と言ってはみたけど、この説明じゃあ「何を言ってるんだこの人は?」だったに違いない。書くのは苦手じゃないが、どうも喋るのは苦手だ。いや、喋るのが苦手だから、書くのが好きになったのだろう。
ちなみに、今日の1杯目は、直球の「ヴェデット・エクストラホワイト」、ルシファーは2杯目に飲みました。
2022.4.30. かがくのとも『ほたるのひかりかた』がいよいよ発売です!
5月2日に正式発売になったらアナウンスしようと思ってましたが、すでにアマゾンで出ていたので宣伝しちゃいます。絵本といえばの福音館書店さんが出している「かがくのとも」。子供のころにお世話になった科学好きの方も多いのではないでしょうか。その「かがくのとも」シリーズの最新刊(2022年6月号)として、私が監修した『ほたるのひかりかた』が発売されます。
ゲンジボタルを観察してみよう、ゲンジボタルの一生を知ろう、という内容です。積極的にホタルに触れてみようというのは、ホタルの本としては新味があります(もちろん、ホタルに触ってはいけないというきまりの場所もあることは、巻末に明記)。卵やさなぎの時期にも発光することや、なぜ幼虫も発光するのかといった、これまでのホタル絵本にはあまり書かれていない科学的な内容にも切り込んでいます。
その分、監修者として内容が正確に伝わることに非常な注意を払いました。文と絵は画家の今津奈鶴子さんですが、監修者として文と絵の両方にかなり多くの注文を付けさせていただきました。本の監修というと、ただ「これでよろしい」と専門家がお墨付きを与えるだけじゃないかと思われがちですが、少なくとも私は専門家として徹底したファクトチェックを怠らなかったつもりです。作者の今津さんと編集の田中さんには、いろいろうるさい監修だなと思われたかもしれません。すみません。
「かがくのとも」にはいつも付録が付いていますが、今回の付録はなんと「ひかるいきものポスター」!こちらは、中田彩郁さんのイラストレーションです。こちらも、多くの文献に目を通してイラストに非常に細かい注文を大量に付けさせていただき、何度もなんども修正していただきました。どうもご迷惑をおかけしました。
福音館書店「かがくのとも」https://www.fujisan.co.jp/product/1281683734
AMAZONからも買えますhttps://www.amazon.co.jp/dp/B09X6J6MT5
我が家では、「かがくのとも」のお兄さん版「たくさんのふしぎ」を定期購読してます。ちなみに、いちばん熱心に読んでいるのは私なんですが。。もともと絵本が好きなので、今回、福音館書店さんの絵本づくりに関わることができて、とても嬉しく光栄に思っています。絵本が作られる現場に直接関わって、さらに絵本というものの魅力に取り憑かれました。作家の今津さん、中田さん、編集の田中さん、すごいです!みなさんプロです。関わらせていただき、ありがとうございました。かけがえのない経験でした。
福音館書店「たくさんのふしぎ」https://www.fujisan.co.jp/product/1559
2022.4.25. ホタルソース
とあるホタル関係の商品を探していて目に刺さったのがコレ!「ホタルソース」なるもののホーロー看板である。
ホタルの意匠が実にいいアジ出てて、思わず飛びつきました。
調べたかぎり現存するソースではないようですが、ソースの名前になぜホタル?一体どんな味?謎は尽きません。
下に書かれた電話番号が4ケタなので、おそらく1950-60年代のモノではないかと思ってます。
ちなみに、日本のホタル文化を知る重要参考資料ではありますが、もちろん自腹で購入してますよ。
追記:私の共同研究者の方からの情報で、ホタルソースはケチャップではないかというご指摘をいただきました。なるほど!いろいろ納得するところがあり説得力のある説です。ホタルも赤色、トマトケチャップも赤色です。そういえば看板のホタルの前胸が変な形だなあと思ってましたが、もしかしてトマトを図案化した!?さらに、現在もケチャップを生産しているカゴメとコーミは、もともと愛知県の会社です。看板の文字が赤色なのも、言われてみればソースの色が赤かったのだろうという気がしてきます。こういう謎解きは楽しいですね。
2022.4.18. 雑誌「現代化学」のPick Upに著書が紹介されました!
今や数少なくなった科学雑誌の中で頑張っている『現代化学』(2022年5月号)のPick UP Book & Informationに、著書『世界の発光生物』を紹介していただきました!
掲載号が送られてきたのでパラパラ見てますが、これが結構面白い。私の若い頃は、他の分野も勉強だと思ってこうした科学和雑誌を「がんばって」読んでいたが、当時はそんなに面白い記事はなかったように思う。
たとえば今回の掲載号の場合でも、「どうなる?どう考える?ゲノム編集食品」とか「ウクライナで生まれた科学者たち」とか「無生物を主語にする」とか「科学者が感動するとき」とか、タイトルだけでも読みたくなる(そして実際に面白い)記事がたくさん。
編集者の努力により雑誌に工夫がされたのか、書き手の科学者たちの作文力が上がったのか、もしくは私に他分野を「楽しむ」余裕(精神的老化?)が出てきたせいなのか。。ともかく、いろんなことを知りたければ、私はだんぜん和雑誌派である。がんばれ和雑誌。
20代からずっと漱石ファンを自認してきたが、最近なんか漱石作品があまり心に響かない気がする。これはあきらかに精神的老化だ!ここのところ、「三四郎」から「行人」まで連続して読んでいるが、若い頃に傍線を引まくった部分に対し、同じ感激が湧き上がってこないのである。そのうち自分も「漱石もいいけど、やっぱり鴎外だよ」なんて枯れたことを言い始めるんだろうか。このままではマズい。思えば、いつのまに漱石の没年齢を超えてしまっていた。もっと本を読まなくてはいけない。
2022.4.2. 画像が間違ってた
新年度の最初は、ちょっと残念なお知らせ。拙著『世界の発光生物』は、出版から今日まで、エラーを誰からも指摘されないという快挙を維持してきましたが、ついに1つ目のエラーが見つかってしまった!
指摘してくれたのは、クシクラゲのスペシャリスト、スティーヴ・ハドック先生。曰く「図8-3のMertensia ovum(クシクラゲの一種)のイラストレーションは、Hormiphora属の一種に見える」とのこと。
慌てて調べまくったところ、なんと、イラストレーションの元となったTorrey, 1904の論文のイラストレーションに学名が誤ってラベルされていた事実が判明。このイラストのクシクラゲはHormiphora californensisだった(ハドック先生、正解!)。
ちなみに、Torrey, 1904の論文は、Hormiphora californensisの原記載論文(その種の最初の報告)です。原記載論文でイラストレーションの表記が間違ってるなどとは思いもしなかったんですが、もちろんそれに気づけなかったのは私の確認不足。改訂版を出すときには訂正します。ありがたいことにハドック先生からは、正しいMertensia ovumの写真を頂いた。
これが問題の箇所(『世界の発光生物』P62)。ちなみに、このイラストの正しい学名であるHormiphora californensisは発光することが知られていない。
新しい本を出すと、だいたい最初の1−2週間でザーッと間違いがいくつか見つかってしまうもので、今回の本ではそれがなかったので我ながら誇らしく思っていたんですが。。。他にも誤りをもし見つけた方がありましたらご一報ください。
大場裕一『世界の発光生物』名古屋大学出版会(2022年3月)https://www.amazon.co.jp/dp/4815810575/