地球上の生態系を構成するアミノ酸はほとんどが L-体です。
皆さんの体を構成するタンパク質も全て L-体のアミノ酸からなります。
このL-体、D-体とは、グリセルアルデヒドの立体配位を基に決められたもので、アミノ酸のような簡単な構造を持った化合物に適用される立体配位表記方法です。
ところで、一般的な条件で合成されるアミノ酸は、L-体と D-体の等量混合物(ラセミ体と呼ぶ)になります。このように自然界には、対称性が存在します。
なぜ、我々の体はその内の一方のみで構成されているのでしょう。
このような対称性の乱れのことを「ホモキラリティー」といいます。
原始地球上において対称性を破る何が起こったのでしょう。
最近、有力視されている仮説の一つに、中性子星(パルサー)の出現が挙げられます。
宇宙における恒星の寿命はその質量に比例して短くなります。
太陽より質量が一桁大きな恒星では、最後に超新星爆発を起こし、わずか数千万年という短い一生を終えます。
その跡に残るのがパルサーです。
パルサーを取りまく強力な磁場が高速で回転しており、その回転強磁場により荷電粒子(電子・陽電子等)が加速されて、シンクロトロンと呼ばれる波長範囲の広い白色光が放射されるといわれます。
特に、極方向でのシンクロトロン放射は、円偏光と呼ばれる特殊な性質を備えた電磁波になります。
円偏光を一言で説明するのは難しいので詳しい説明は省きますが、光とは一定周期で振動する質量を持たない粒子と考えれば、円偏光は螺旋を描いて飛んでくる粒子と考えてください。
こういった粒子が飛び交う環境での有機合成や生成している有機物の分解性にはホモキラリティーが成立します。
我が銀河系における超新星爆発の発生は、二万光年のはるか彼方でのケプラーの超新星(1604年)以来確認されていません。
ただ、数十億年前の宇宙は今よりずっと密であり、超新星爆発は頻発したものと思われます。
偶然、太陽系の近傍で、極方向をこちらに向けたパルサーが誕生したと考えても不思議ではありません。