吉村研究室

転写後調節によるストレス応答

転写後調節による環境ストレス応答の制御機構

転写後調節によるストレス応答-1

植物の葉緑体では、光合成に伴い有害な活性酸素種(ROS)が常に生じているため、さまざまなROS代謝系を発達させています。特に、ビタミンC(アスコルビン酸:AsA)を電子供与体としてH2O2消去反応を触媒するアスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)は葉緑体内のチラコイド膜(tAPX)およびストロマ(sAPX)に局在し、迅速かつ厳重なROS代謝系を構成することで、光合成の健全性維持や適切なROSシグナルの発信に機能しています。注目すべきは、tAPXおよびsAPXは一つの遺伝子から転写後調節機構の選択的スプライシング(AS)により生成することです。

ASとは、1つの遺伝子からスプライシング様式の異なる複数のmRNAを生成する機構です。つまり、たった1つの遺伝子から機能や局在性が異なる複数のタンパク質を合成することができる、合理的かつ効率的な転写後調節機構です。植物でも多くの遺伝子がASを受けることが報告されていますが、それがどのように行われているのかはほとんど明らかになっていません。

転写後調節によるストレス応答-2

葉緑体型APXの様な各AS産物の機能が明確なAS機構は、未知の部分が多く残されている植物の転写後調節による遺伝子発現制御の研究モデルとして非常に適しています。しかし、そのAS機構の制御に関わる因子はいまだ不明です。これは、実験手法の特異性の問題などから、RNA代謝に関わる因子の同定は非常に困難であることに起因します。

転写後調節によるストレス応答-3

そこで本研究室では、葉緑体型APX遺伝子のAS効率の変化を簡便にモニタリングできる様に工夫した遺伝学的スクリーニング手法により、SRE配列に結合し、本遺伝子のAS機構に関与する制御因子を同定し、その機能解析を行うことを試みています。また、本AS制御機構の植物界での生理的重要性を明らかにするために、同定した因子の他の植物種のASへの役割についても解析を試みています。

得られる成果は植物のROS代謝戦略の理解だけでなく、その改変により環境ストレス耐性能を向上させた作物の分子育種にもつながると期待されます。