1.研究成果のポイント
・強力な電磁波のガンマ線と酸化鉄の水分散液で発電
・単純なシステムで繰り返し電気を取り出すことが可能
・原子力発電の使用済み核燃料などの利用に期待
2.研究成果の概要
身の回りの未利用なエネルギーを電気に変えて利用する環境発電の研究が進められています。太陽光発電や風力発電は良く知られており、それ以外にも振動や温度差、波力を用いた発電も実用化しています。我々の生活環境とは異なりますが、今回、原子力発電所内の使用済核燃料から発生する電磁波のガンマ線もエネルギー源になることがわかりました。
中部大学応用生物学部応用生物化学科の堤内要教授と工学部創造理工学実験教育科の橋本真一教授、大阪大学 産業科学研究所の室屋裕佐准教授を中心とする共同研究チームは、安価な酸化鉄の水分散液にガンマ線を照射する簡便な方法で発電する新技術を開発しました。
堤内教授らは、水に分散させた粒径数ナノ(ナノは10億分の1)メートルの酸化鉄の一種であるマグネタイト(Fe3O4)粒子にガンマ線を照射することで、水(H2O)の電離により、酸化された過酸化水素(H2O2)などの活性酸素種が発生する一方で、マグネタイトは、電子を取り込み、還元されることを発見しました。そこで分散液に電極を設置し、磁石を近づけて酸化鉄ナノ粒子を片側の電極近傍に集め、電極を配線でつないだところ電気が流れることを確認しました(図1)。
放電が終わったところで、鉄を分析すると還元されていた鉄が酸化されていました。再びガンマ線を照射して同様の操作をすると再び電気が流れました。これらの結果から、酸化鉄の水分散液にガンマ線を照射し、磁石を近づけたり遠ざけたりするだけで繰り返し発電するシステムを作り出せることがわかりました。今回の実験には医療や工業用に利用される放射性同位元素のコバルト60から発生するガンマ線を用いました。今後、例えば原子力発電所の使用済燃料貯蔵設備に組み込めば、現在は未利用のガンマ線からの発電も可能になると期待します(図2)。
【図2】使用済み核燃料で発生するガンマ線を利用する場合の発電の構想図
(a)は発電時
(b)は発電を止めて再び酸化鉄を循環する様子
今回の研究は日本学術振興会の科学技術研究費助成事業(科研費)テーマ「放射性廃棄物からのエネルギー生産」*1で実施しました。
研究成果の一部は、日本化学会春季年会*2で3月24日に発表します。すでに技術に関する特許も出願しました。